再掲・冬空

何度も書いている気がするが、元来寒いのは嫌いではない。
「あぁ涼しい」という瞬間よりも、「あぁあったかい」と思う瞬間の方が、私には貴重で好きなのだ。

寒空の下、コートを着込んで、マフラーをして、それでも顔は冷たくて寒くて、酢でしめた魚のように、なのか、自分がキュっとなる気がする。

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カラオケルームでは一曲も歌わずに、 ボーっとしたりつまらなそうにしたりニヤニヤしてるだけなのに、 深夜の帰り道、がらんどうの路地に気を許し、調子外れの声で歌う。

時の流れが
「生きてる意味」に目隠しする理由は
プラネタリウムとおんなじ。
暗闇がくれる光を知るため

終電帰りといっても、今日は仕事ではなく遊んできた帰り道だからいつもより少しだけ上を見ていたからなのか、ずっとずっとむこうで、星が瞬いているのに気づいた。

はっとなって見上げると、月が出ているというのに、いくつも星が見えた。
夜空は、キラキラしていた。
たぶんあれは北斗七星だ、ということはあれは北極星だ。

何となく嬉しくなって、足取りは軽く、水溜りに駆けていって、氷をバリバリ割って遊んだ。
革靴だから、さすがに、そっと。

 ※  ※

「世界には食べたくても食べられない人たちがいるんだから、好き嫌いなく食べなさい」という論理展開には、子供心にも疑いを持つくらいで、
自分より辛い人がいるかどうかなんて関係ない、ただ、自分にとって自分が辛いという事実だけが何より辛いわけで、
逆に、誰かに同情することは出来ても、誰かをとてもとても大事に思っても、結局何もしてあげられない。
どこまでも誰かは誰かで、私は私。

 ※  ※

人に会いに行くために渋谷を歩いていたら、意外な人に逢って慌てて挨拶して
点滅した青信号の方へ早足で進んでいると、思いもよらない人がいて、声をかける暇もその気もなく、
眼鏡をかけていなかったからよく見えず見間違えだったかもしれないその人は、あっという間に雑踏とテールランプに吸いこまれていった。

(※元は1月末に書いた日記)