平日の昼日中の公園といえば、訪れる人の多くは小さな子供連れである。
私の半分くらいの背丈しかない子供たちを見ていると、本当に1つの生命体なのだろうかと信じられなくなる。照れくさいもんだから「子供欲しいなぁ。早く養ってもらいたいよ」とつぶやくことにしているが、こんな私でも、泣きべそをかいている男の子や、やたら短いワンピースを着てはしゃいでいる女の子を見ていると、かわいいなぁと思う。
子供は、いつも走っている。それも随分あぶなっかしい。ブランコで遊んでいるところに平気でつっこんでいくし、だいたい勝手に転びそうなたどたどしさだ。「でも、これって必要なことなんだろうね」と、友人と一緒に考えていた。自分の体を、自分で制御する訓練だ。体をどう動かせば、どういうことになるのか、あの小さな体で、この大きな世界と、存分に会話をしているのだろう。覚えてもいない昔から、私達も、ずっとそんなやりとりをしてきたのだろう。
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キャッチボールをしていて思うのは、おおむねそんなようなことの延長である。ろくに意識もしなくても、何となく左手を出せば、グローブにすぽっと入ってくれる。数十メートルはなれた相棒のミットをめがけて投げれば、それなりのところへ飛んでいく。ずっとずっと、試行錯誤を繰り返してきた積み重ねを体が覚えていて、また、耐えず微調整しているのだろう。我ながらすごいぞ、と感心するのと同時に、なかなか制球が定まらないもどかしさも感じる。
単純なことをもくもくと繰り返そうとし、実は一度も同じ球を投げられないのは、結構面白いことだ。やっぱり人間は、頭使っているだけじゃダメだと感じるすがすがしさだ。雲ひとつない青空で、少し動いたくらいでは汗もかかない陽気なら、なおさら気持ちがいい。
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涼しくなってきて嬉しいのは、食べ物がおいしくなることだ。特に魚貝類は、断然寒い時期のほうがいい。たとえばイクラ。一年中見かけるが、腹子を抱いたサケがのぼってくるのは秋だけである。だから本当に美味しいのは、せいぜい9月から10月いっぱいくらい。この時期の生イクラは、うまく説明できないけど、実にうまい。
何も高いものに限らなくっていい。秋刀魚はうまい。同じ値段を出すなら、マグロより、旬の秋刀魚を塩焼きにして食べる方が絶対うまい。戻りカツオもうまい。カツオというと、五月頃の「初鰹」が有名だが、北上したカツオが戻ってくる「戻りカツオ」は、脂がのっている。お鮨屋さんによっては、味がくどすぎるといって出さないようだが、スーパーで買って食べる分には十分美味しい。匂いがイヤだという人は、たたきではなく生を買ってきて、サクのまま串などを刺して、ちょっとだけ炙って表面を焼いてから切って食べるといい。
どんなに技術が発達していても、やっぱり「旬」にまさるものはない。それは別に「お店の売り文句」に踊らされるとか、カレンダーのとおりだとか、そういうのではなくて、海流とか、気候とか、または漁師さんとか、魚屋さんとか、もちろん魚たちや、そういう自然や人々の歯車がうまくかみあったとき、びっくりするような恵みをわけてもらえるということだ。
今でもはっきり覚えているが、二年前のこの時分、知人に某料亭に連れて行っていただくことになっていたのに、あろうことか持病の偏頭痛を発症してのた打ち回っており、直前にキャンセルしたことがあった。具合が悪いやらさらに落ち込むやらで、大変悲しかった。
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そういえば、季節や気分が不安定になるからか、ついつい食べ過ぎるからか、夜長に乗じて寝不足になるからか、この時期よく体を壊す。去年もそうだったし、何年か前は、映画の観すぎで疲れて寝込んだ。
夏休みや正月には、大作とか、子供連れを見込んだ作品ばかりが上映されるものだが、その狭間のこの時期は、個人的に気になる作品が多い。東京国際映画祭も10月だったはずだ。たとえば「学校Ⅳ」「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」と、山田洋次作品はこの時期が多い気がする。山田洋次氏には、幸運にも一度直接お会いする機会があり「良い映画は良い観客が創る」と書いていただいた。良い観客であれたかは分からないが、高校時代はたくさんの映画を観た。
スタンド・バイ・ミー」という映画がある。「24」のキーファー・サザーランドが若い頃にでていた映画で、夭折したリバー・フェニックスが輝いていることでも知られる。少年4人組が、森の奥にあるという事故死体を探しに行く物語だ。原作はスティーブン・キングで、原題を「The Body」という。すなわち、「死体」。元々は、春夏秋冬を背景にした作品が順番に入っている中篇4作のうちのひとつで、「The Body」は「秋」である。
「おしまい」は冬だというイメージがあるが、実は「はじまり」で、終末や死を暗示するのは、むしろ秋なのだという。枯葉が落ち、いろいろなものが終わっていく季節なのだろう。…というのは、高校のときのS先生の受け売りである。当然聞き覚えだから、ともすると私が記憶違いをしているかもしれない。
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ぽかぽかした日が続くかと思えば、急に冷え込んだり、長雨が続いたり、夜が突然訪れたり、不安定で、何かうねりのようなものに包まれて、いろいろなことを思い出して、それはまるで風の吹き溜まりに迷い込んだかのように、ここからどこにも動けないような気がしてしまう。私はどうも、秋という季節が苦手なのである。