遠くにありて

NHKのドラマを立て続けに二本観た。偶々だろうがどちらも室生犀星の原作である。

http://www.nhk.or.jp/bungokaidan/vol4.html
ひとつは「妖しき文豪怪談」なるシリーズのひとつ、「後の日」。是枝裕和監督の作品である。幼くして亡くなった子供が、夫婦のもとにひょっこり帰ってくる話で、私の好きな系統の是枝作品であった。「歩いても歩いても」のような、「畳の上のリアリティ」。「誰も知らない」で証明済みの、子供の演出の確かさ。
加瀬亮は先日ヤクザ映画に出ていたし、是枝監督の「花よりもなほ」でもニヒルな役柄だったが、今回も、特段ヤクザな描写はどこにもないのに、シャープな感じがした。中村ゆりは存知あげなかったが、実に身のこなしや居ずまいが綺麗で、和服美人であった。

http://www.nhk.or.jp/hiroshima/program/etc2009/drama09/index.html
実家に帰ると、母が「観せたいドラマがある」という。「なんかの賞をとったドラマで、セリフがいいのよ」「へー、脚本だれ?」「えーっと、わたなべ…」「渡辺あや?」「そうかな」「あーそれならいいに決まってるね。ジョゼと虎と魚たちとか、メゾン・ド・ヒミコとか、天然コケッコーとか。島根か鳥取の主婦だよ」
というわけで、観た。「火の魚」。
堪え性が無く普段ドラマなど最後まで観れない父も、二回目だというのに、昼寝の途中だというのに、「あー、結局最後まで観ちゃった…ていうか聞いてたよ」という。「何というか、もう詩みたいなもんだもんね。セリフも間も、隙が無くて心地よい」と私。
原田芳雄は、他はちょっと考えられないようなハマり役で、居丈高な感じも弱さも、実にうまい。「人間歳とってからだって変われる」というと、『グラン・トリノ』が思い浮かぶが、(一概に比べられるもんじゃないが)そのとまどいの表現でいったらクリント・イーストウッドよりよほどうまいんじゃないか。
出色は尾野真千子で、自分とそう歳も変わらないほど若いのに、難しい役どころを実にいい芝居をしていた。原作の持ち味なのか、脚本の力か分からないが、古風で丁寧な(棒読み気味の)口調が実に心情豊かである。
生と死、老いと言う普遍的な(手垢の付いた)テーマを、情景描写・投影・ユーモア(と言ってしまおう)をうまく織り交ぜて小気味よい作品であった。モノローグがある類の作品は概して好かないのだが、むしろそのおかげでテンポよく一筆書きのようで、しかし抑制が効いて野暮になることもなく、その辺は今をときめく脚本家の面目躍如である。
1時間足らず、実にいい作品であった。