年の瀬も本ばかり読んでいる

街場のメディア論 (光文社新書)

街場のメディア論 (光文社新書)

街場のメディア論。内田氏の著作は、何となく思っているんだけど既成概念や常識のため見過ごしている事象を、軽妙な切り口で指摘し、「あー」「おー」となるところにその魅力があるように思う。冒頭のキャリア論なんてまさにそうで、偏見に満ちたまとめ方をすれば「リクルートが下手な夢を見させるからおかしくなるんだ」、となる。
が、肝心の本論に行くと、あんまり目新しいこと書いてないなぁ…と思ってしまった。日本のジャーナリズムが育たなかったのは、新聞がだらしないからで、かといってテレビと資本関係にあるのだから立場の異なる批判を書け…といったって、それはそれでなかなかハードルが高かろう。個人的に、エンターテインメントの要素はデフォルメと単純化にあるように思うが、テレビが影響力を持って巨大な存在になればなるほど、(あえて嫌いな言い方をすれば)大衆の最大公約数をとれば、エッジがきかなくなりまた自己規制に収縮していくのも無理はない。
また、「本は消費物ではない」「本棚はその人を語る」「もらって価値を感じる人があらわれて価値が生まれる」…といった指摘がなされているが、それは本に限ることはあるまい。人によってはピカソの絵も人によっては「鍋敷きにもならない」代物だろうし、鉄道好きが自宅に模型を並べるのと、本棚と、人生を語るに何の差があるのか。要はだれが何に価値を感じるかはその人それぞれであり、本だけを特別視するロジックが読みとれなかった。おそらく内田氏は本が大好きなのだろう(当たり前か)。
そういう意味では、何も本にかかわらず全てが権利関係・資本主義に呑みこまれているわけであって、そんな相手を向こうに回して論陣を張るには、新書一冊では分が悪いように思えた。