マックィーン・マックィーン

ふとしたきっかけでスティーブ・マックィーンの映画を立て続けに観ているが、友人たちにそのことを話しても、たまたまなのかどうも名の通りが悪い。たとえば5歳年上のポール・ニューマンの方が現在でもよく知られているように感じられるのは、マックィーンが早くに亡くなったからというだけではなく、彼が本質的にアクションスターとして認識されているからではないか、と思う。
なるほど、「華麗なる賭け」のマルチ画面処理は「24」からさかのぼること30年以上も前であるし、「ブリット」のカーチェイス、「ゲッタウェイ」のスローモーションを多用したガンアクションは、他の映画の先駆けとなっていて見ごたえ十分である。が、今となっては真似されすぎていて、奇妙な既視感に襲われるほどだ。
どんな高級な味も、マヨネーズやケチャップの破壊力の前にひれ伏してしまうように、上質なアクションも、パンチだけはきいているジャンクな亜流に凌駕されてしまう。早い話、刺激は飽きられるのである。「ゲッタウェイ」の演出などは観慣れ過ぎて、ともすればスローモーション処理が使われていることに気づかないくらいである。
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プロ顔負けの運転技術や、颯爽とした銃さばきに隠れがちだが、彼はちょっとした表情や仕草が実にうまい役者だと思う。
そのことを痛感したのは、パニック映画の代表「タワーリング・インフェルノ」を改めてみた時だった。超高層ビルの火災が舞台となる本作、小学生の時に観たことがあって、その時は建築家役のポールニューマンの活躍の方が印象に残っていた。
が、しかし。本作のマックィーンは白眉である。消防隊長役の彼は、さながら負け戦に挑む老兵のような味わいを見せていて、圧倒的な火の手にかなわぬことを知りながら、目の前の仕事に淡々と、それでいて誰よりも果敢に立ち向かう。一難去った後の表情、部下を思いやる視線、そして犠牲となった同士の遺体を前にした何とも言えないたたずまい、深い。
ついでに言えば、本作はウィリアム・ホールデンフェイ・ダナウェイら名優の存在も光り、困難を前にした「人間」を描いた、色あせない名作である。
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「ハンター」は実在の賞金稼ぎを描いた地味な作品だが、既に余命数ヶ月を宣告されていたマックィーンの遺作となると俄然意味合いが変わってくる。
あのマックィーンが!、運転は超へたくそ、家では老眼鏡をかけ、犯罪者には投げ飛ばされ、子供ができても父親になる覚悟が無いとおろおろし、いざ生まれる時もおろおろし、実に人間くさい。一方で、列車の屋根の上での決死のアクションを見せ、また同時に、初期の「荒野の七人」「大脱走」で見せていたようなコミカルな一面ものぞかせる。
ラスト、赤ん坊を抱え上げた(少しピンボケの)笑顔のファイナルカットは忘れ難い。かつては上昇志向が強く共演者とも軋轢をうみ、また「ヒーロー」を演じることにこだわってきたというマックイーンの、粋なカーテンコールであった。
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「たら」「れば」を語ればキリが無いが、50歳の若さでこの世を去ることが無ければ、歳と名声を重ねたあと、いい意味で力の抜けた、味わい深いマックィーンをもっと観れたのではないか。同世代のイーストウッドショーン・コネリーにひけをとらず、渋くて、あたたかくて、可笑しくて、より後世まで残る代表作が、もっともっと生まれたのではないか。そう思うと、かえすがえす残念である。

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