ぐるりのこと。

ぐるりのこと。 [DVD]

ぐるりのこと。 [DVD]

数年ぶりに新文芸坐で観た。改装オープン以来??
とてもよかった。いい映画だった。
『東京タワー』を読みもしないくせに何となく敬遠していたリリーフランキー、恐るべし。はじめの方は丸っきりただのダメ男とみせかけて、観ていくうちに実はこういう生き方が真実なんじゃないのかとさえ思えてくる。生きていくことはたいへんなことだから、ふらふらと、すべてを受け入れるような、いや、受け流すような、飄々と生きなきゃやってけなくて、でも、生きていくことはたいへんなことだからこそ、揺るがないものにはこだわらなければ生きていけない、大事な伴侶は大事にしなきゃいけない、何をするでもなく、ただ寄り添って、自分が楽しまなければ楽しめない、そんな深さを感じる。
木村多江も、実はちょっと苦手だなと思ってたんだが、(そんなんばっかじゃん)、熱演がよかった。
監督の手腕も光ってる。たぶん、“ストーリー”なんてものは古今東西もうありふれてしまっていて、プロットにしてみればありふれた話なんだけど、細部にリアリティがある作品が僕は好きなんだろう。たとえば2人が食べるのはトマトであるべきでキュウリであってはいけないし、描くべきは天井画であるべきで掛け軸であってはいけない、買ってくるプラモは「金閣寺」だからよいのであって「ガンダム」ではいけない、手で覆って泣くのではなく本をひらいて顔を隠しながら涙を流すから心に迫るのだろう。そういうひとつひとつのディティールが映画を作り、そしてそういうひとつひとつの選択が誰でもない自分の人生を作っていくんだろう。
DVDのカバーにもなっている金屏風前の2人の写真、いいなぁ。かくありたいもんだ。