うしろの正面

ありふれた話題だが、たとえば恋をするたびに「これが本当の初恋だ」と思う(人もいる)ように、感情は記憶されないで、いつだって今という立ち位置に引っ張られる。少しも意識なんてしてないのに、いつの間にか何度だって書き換えられていて、「今」になってみれば、あの時、何を考え何を思っていたんだろう、どうしてこんなことに執着していたんだろう、何を信じて生きていたんだろうと、想い出は途端に頼りなく、霞かかって見える。

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BSで『Love Letter』をやっていたので観ていた。久しぶりだ。4年ぶりくらいだと思う。若い頃の中山美穂は手のしぐさがかわいくて、大阪弁のトヨエツはひょうひょうとしていて。酒井美紀柏原崇の2人は、この頃が一番輝いたんじゃないのか。
高校の頃はじめて観た作品で、とにかく好きだった。おとぎ話のようなあたたかさの中に、大げさに言えば、生きてきたことと死ぬことを思った。明るく幻想的な映像、ファンタジーを思わせるストーリー、ふざけた台詞回し、ふわふわとした編集。岩井美学との出会いは衝撃だった、…のだと思う。

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『ダイハード4.0』を観てきた。
意外に思われるかもしれないが、私も子供の頃はハリウッドのアクション映画ばかり観ていた。そのうち、「なんだ、ダイハードより面白いアクション映画なんてないんじゃないか」と気づいて、プッツリと観なくなったのだった。個人的に思い入れのあるシリーズなのである。
単純に面白かった。単純に。何というのか、続き物の宿命で、「こうする他しょうがないよなぁ」といったところである。新作を観ていて、ダイハードシリーズの魅力のひとつは、ひとえにジョンマクレーン刑事というキャラクターなのだと感じた。運悪くテロ現場に居合わせ、分の悪さを知力とハートでカバーし、ぼやき、最悪の状況でもジョークをとばし、血だらけになって敵と戦う。そんな経験を4度もすれば、貫禄が出て英雄扱いされてしまうのも仕方ないかもしれない。
というわけで、もはや伝説となった1作目を観直してみた。ほとんど奇蹟のような面白さだった。実によくできている。
アクション映画は、つきつめればただの「大量殺人ゲーム」なんだろう。けれど、そんな殺伐さを感じさせない。キャラ設定や感情描写、空間の使い方見せ方が秀逸で、幾重ものドラマがある。アクションにもひとひねりふたひねりあって、発砲や爆破だけに頼らない、ドキドキがある。
先の展開を知らないで観たときの衝撃を、もう一度味わいたい、…と思う。

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初めての体験はそれだけで衝撃で、密度の濃い出会いとなれば衝撃はさらに上乗せされる。しかし、ひとたび過ぎさってしまうと、途端にそれは「そうあったはずのもの」でしかなくなってしまい、いくら振り返っても、まるで幻のようで、とらえどころがない。
それでも、月並みだが、そんな「幻」を大事にしていきたいと思うのだ。覚えておきたい「幻」を、いや、思い出したい「幻」を、作っていけたらと思うのだ。

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人事関係で、やたらと「振り返り」の書類を作らされるので、ふとそんなことを思っていた。何年か先、今の日々をいったいどんな風に思い返すのだろうと、今から考えてみたりもする。

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